牧野 公紀(まきの ひろき)
農家としての心構え「真面目に毎日、植物に向き合っているからこそわかる僅かな変化に気づいていくことが美味しい農産物をつくる原点である」
牧野さんは、祖父の代からつづく専業農家の家庭に長男として生を受けました。当然、周囲からは幼少期より将来の後継者としておおいに期待されていることを感じていたそうです。
家族が身を粉にして働く姿を目にして牧野さん自身も農業に関心を持ちましたが、成長するにつれて、「家業がそのまま自分にとって天職になるとは限らないはず」という思いに駆られるように。
「自分の人生は自分で決めたい」という一心で、農業が嫌いだという訳ではありませんでしたが、一種の反発心から大学卒業後は地元の地銀への就職を選択しました。
就職後は、営業職として大変な苦労がありながらも、さまざまな学びがあり、あらゆる業種の経営者の事業経営感に触れる中で次第に家業のことが思い出され、農業が当然のものとして生活の一部だった学生時代には見えてこなかった部分に目を向けられるようになったそうです。
それは、一つの目的に向かって小規模ながらも家族で団結して、作物を作りあげる姿勢でした。その姿勢には牧野さんが銀行員として見てきた、いかなる経営体にも劣らぬ情熱を感じ、自然と頭が下がったのです。
そして銀行業務は自身以外にも変わりがきく人材はごまんといますが、牧野丑信農園の農業は法人化している訳でもなければ、父が誰かに事業譲渡を検討していることもない。この世界で牧野さんご自身以外には、家族が納得する形で経営を継げるものは誰1人としていないことを改めて感じるようになったのです。
牧野さんの銀行員生活は入行から7年間で幕を下ろしました。そしてこの7年の間に牧野さんは奥様と一人息子を授かりました。そして30歳の2015年4月、牧野さんは一歩の後退も許されない緊張感と、使命感を胸に農業人生をスタートさせます。
牧野丑信農園は50年以上にわたりスイカ・メロンと米を栽培してきましたが、メロン栽培は人手がかかるため、数年前に栽培を休止している状況でした。牧野さんの就農当時は空前のトマト・イチゴブームで、同時期の新規就農者の多くはそのいずれかを選択していました。
牧野さんは農業を始めるにあたり、まずは牧野さんの父が農業人生で手にしたスイカ栽培の技術や知見を隈なく引き継ぐことを最優先の課題に設定。牧野さんの周囲にいた、高校を卒業してすぐから就農している先輩農家から見れば、牧野さんは大きな遅れをとった新参者であり、いかにして効率的に彼らに追いつくかを考えるようになったのがその理由です。
牧野さんの父の指導のおかげもあり、一年目から慣れないながらもスイカの栽培そのものは順調に進行しました。しかし出来上がったスイカの味は美味しいのは間違いないのですが、就農後に知り合ったさまざまなスイカ農家の仲間と食べ比べをさせて貰うと牧野さんのものが一番であるとはいえませんでした。
就農以来、家族経営である牧野丑信農園の農業が目指すべきあり方は「季節ごとの旬の果実を、たしかな栽培方法で安定生産すること」と決めており、生産量を増やすことは難しいと認識していたため、牧野丑信農園の作物の味が一番でないことは牧野さんにとって大きな課題となりました。
「生産量が拡大できないのなら地域で一番の味を目指さなくてはならない」という意識がその後の指針となったのです。
まずは果実の味のために土壌分析を実施し、土壌の肥料成分のバランスを確認するようになりました。その結果、必要な肥料成分に偏りがあったのです。そのため過剰成分の施肥を中止し、主に緑肥(ソルゴー・ネマックス・ライ麦・ヘアリーベッジ)を播種しています。
また、有機肥料として地域の牛舎から牛糞堆肥を分けてもらい、米ぬかと混用し年間8度切り返すことによって完熟堆肥を生産し、1反あたり1,500キロ散布しています。他にも水管理を徹底することはもちろん、「そもそも季節に合わない作物は作らないこと」が高品質果実の生産に繋がっています。
一方で、九州で施設園芸を安定的に継続するために避けて通れないリスク要因は台風です。毎年約束した時期に安定した品質と安定した供給量を担保するために、2022年にメロン専用の耐候性ハウスを新設。メロン専用としたのは、牧野さんの父の経験値を吸収できることに加え、 夏場に栽培するならばメロンはスイカよりも高温環境下で安定した品質を発揮できるからです。
「環境を整えた上で、環境に適した作物を選択することが我々にできるすべて」とは牧野さん談。コスト面では負担となりましたが、暖房コストを最小としながら、安定した品質のメロンを7月と11月に生産することが可能となりました。
熱が籠らないことを最優先に設計した耐候性ハウスにおいては、冬・春での作付けは行わず、土づくりのために冬越しの緑肥を栽培しています。
牧野丑信農園の圃場はすべて、年間2作を収穫後は緑肥を栽培し、緩効性の有機肥料を供給できる体制を構築することで食味の安定を図っています。
「スイカとメロンは青果で食べるのが一番美味しく、逆にいえば加工が難しいごまかしの効かない品物であるため、妥協のない商品を提供したい」と牧野さんは話します。
牧野丑信農園の農業は、戦争から帰還した牧野さんの祖父に起源をもちます。幼少の頃、牧野さんが祖父の前で約束した「農家になって爺ちゃんの畑は俺が守る」という言葉は、3児の父となった今、改めて牧野さんを奮い立たせる目標となっています。
熊本県随一の農業地である植木町から、恵まれた自然環境を最大限いかした牧野さんのスイカとメロンを農家直送でお届けします。ぜひ一度お楽しみいただけますと幸いです。
牧野丑信農園の作物はこちらから!